「花筐」 3
アイとまた、いさかいした日のことを詠んだものでしょうか。
山なみ遠に春はきて こぶしの花は天上に 雲はかなたにかへれども かへるべしらに越ゆる路
・・・・『花筐』は、収められた89編中、序とエピローグを除いては、ことごとくが何かの花を詠んだものです。
なかでも「山なみとほに」は絶唱の一つといっていいものでしょう。
萩原葉子の『天上の花』この詩から採ったものです。
しかし最後の一行は、既に自分たちの破局を予感、自分には帰るべきところの無いことを悲しんでいます。
「こんな貧乏な所にいったい何があるのですか?
私は海鳴りに負けない大声で叫び返した。
貧乏でもどんづまりでも、ここは私とあなたの二人きりの棲家です。
どんなものでも皆大切なのです。
売れないものが、どうして大切なのですか?
現実離れの三好の悪いくせを指摘した。
――売れるものばかりが、この世の中で大切だとは限らないのだ。
と、三好は急に低く言うかと見ると、涙が落ちた」
・・・こうして敗戦も間近な昭和20年2月、わずか10カ月の同棲で、二人は別れることになってしまいました。